At Morning
まだ人の気配が薄いテナントビルの朝。 シャッターの向こう側には、 今日もたくさんの可能性が眠っている。
店に入ると、まず空気を一度吸い込む。 ひんやりした床の匂い、昨日の売れ筋が わずかに抜けた棚のすき間。 そのどれもが、小さなサインだ。 ー今日、どれだけの人に、 どんな一足を届けられるだろう。
掃除をしながら、心の奥は少しだけ張りつめる。 レジを立ち上げ、補充する靴を並べていく。 昨日の数字を見ながら、 今日の流れを静かに組み立てる。 〝勝負の仕掛けどころはどこだろう?〟 そんな思考と、ちょっとした緊張感。 でも、不思議と怖さはない。 むしろ、ワクワクの気持ちが騒ぐ。
朝礼でスタッフと向き合うと、 空気があたたまっていく。 一人ひとりに伝えたいことは少しずつ違う。 得意を伸ばしてほしいメンバーには背中を押し、 迷いが見えるメンバーにはそっと方向を示す。 〝よし、今日も楽しくいこう。〟 自分の声に、自分自身が いちばん励まされている気がする。
Start Work
オープンと同時に、スイッチが入る。 店長である前に、一人の販売員でありたい。 だからまずは、お客様の声に耳を澄ませる。 靴の音、会話のテンポ、 商品を見る目線の速度。 小さな〝気配〟が、 今日の売り場の表情を教えてくれる。
気づいたら、自然と体が動いている。 声をかけ、提案し、お客様の一歩先を読む。 売りたい商品が売れたときの、高揚に近い喜び。
昼すぎ、来客がゆるむ時間帯になると売り場を変える。 〝ここに置いたら、お客様が手に取ってくれるかも。〟 そんな直感と、データが示す現実が交差する。 位置を数十センチ動かすだけで景色が変わる、そのおもしろさ。 うまくいかない日の悔しさも、嫌いじゃない。
スタッフの接客にも、いつの間にか目が向く。 〝今の良かったね〟 そう声をかける瞬間、 まるで自分のことのように誇らしくなる。
そして夕方。人の気配がまた濃くなり、 売り場はクライマックスを迎えたように活気づく。 最高に楽しい時間だ。 接客に集中すると、世界がひとつの 靴の上に集まってくる気がする。
At Night
シャッターが閉まる音は、 今日という物語が区切られる合図。 がんばりが数字という形になっている。
ほかの店舗の数字を見て、 〝よし、今日は勝てた〟 〝明日は負けないぞ〟と、 そんな静かな対抗心がじんわり灯り、 明日への燃料になる。
「おつかれさま!」の言葉を交わして、 店を出ると、街の夜風がふっと肩の力を抜いてくれる。 電車の揺れに身を任せながら、 今日誰にどんな靴を届けられたか、 ふとひとつひとつ思い出す。
〝明日はもっと良くなる気がする。〟 そんな曖昧で、でも確かな感覚を抱いたまま、 今日という1日はすっと幕を閉じていく。